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エア退社を強要された!証拠を残して請求できる?裁判の判例紹介

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”エア退社”という新しい言葉が登場してきました。

 

”エアあやや”、”エアギター”などに代表されるエアシリーズですが、どれも現実にそうしているわけではなくあくまで見せかけているだけという意味ですよね。

”エア退社”も同じく、退社しているように見せかけて実際には会社に残って仕事をしているということです。

 

タイムカード上では帰ったことになっているので、労働監督署の注意を受けないという点ではサービス残業よりも悪質な違法労働です。

 

今回は、こうした悪質なエア退社で失った分の未払い残業代を請求するための準備や相談の方法をまとめてみました。

そして、記事の最後には注意しておかなければならないことも記しています。

このページにたどり着いた方は相当お悩みだと思いますが、今一度冷静になって対処していただければと思います。

 

”エア退社”強要の現実

実はこのエア退社は、働き方改革がもたらした副作用といわれています。

 

『長時間労働の是正』を表向きにしたこの法案は、2019年4月から施行され、企業では残業を減らすための様々な対策がなされるようになりました。

 

しかし、こうやって規制をかければその抜け穴を探してくるブラック企業も必ずいるのが現実です。

その一例がエア退社だ、というわけです。

 

言葉こそ最近できたものですが、数年前から実態がありました。

 

管理人の身近な人の話ですが、その人は営業職で外勤手当の2万円/月を理由に残業はフリータイムでした。

さらに掘り下げて訊くと、まさにエア退社と同じく定時後は帰ったように見せかけるためにタイムカードを押すことを徹底させられたといいます。
しかも、タイムカードの時刻も、いつもいつも定時きっかりだったら不自然なので、10~15分くらい後に押すよう言われていたという徹底ぶり。

 

結局彼は体を壊して営業職そのものにトラウマになってしまい、営業職としてのキャリアが認められてしまわないうちに退職しました。

 

未払い残業代請求には証拠が必要

エア退社やサービス残業で実際には多く働かされていた分を取り戻したい!

そのためには、支払われなかった分働いていたことを証明する証拠が必要になってきます。

具体的にどんな証拠が必要なのか、もしそれがない場合はどうすればいいのか、説明していきましょう。

 

証拠として有力なものと、その残し方

未払い残業代を請求するためには、

  1. 残業していた事実が分かるもの
  2. 残業内容が分かるもの
  3. 支給額が分かるもの

が、証拠として必要になります。

 

1.の証拠として最も有力なのはタイムカードの打刻時間になりますが、エア退社はその証拠を潰させるものです。

しかし、確実に証明できるものはほかにあり、それが業務メールです。

しかも、メールひとつだけで上記1.と2.の証拠になりえますから、けっこう強力です。

証拠として利用するメールはもちろん、自分が本当に退社した直近の時刻に送受信したものが好ましいですね。

 

また、パソコンの画面のスクリーンショットも証拠として有力です。

パソコン画面にはたいがい、右下に時刻が出ていますよね。

書きかけの業務メールが写るようにしておいてフルスクリーンショットすれば、その日働いた分の証拠になります。

 

そして、上記3.の証拠は労働契約書雇用通知書もしくは就業規則があればそれでOKです。

要するに、残業代をどうやって決めているか?が明らかになっていればいいもので、この3つには必ずそういう規定が書かれているはずです。

 

証拠がない場合は?

結論を言えば、証拠がなくても大丈夫な場合もありますが、基本的には厳しくなることは知っておいてください。

 

具体的には、弁護士に相談します。

そうすることで弁護士が会社側に勤務記録等を開示するよう申し入れてくれますが、

  • エア退社の場合、勤務記録は定時退社したことになっている
  • そもそも、会社として痛手になるので開示要求に応えてくれない場合もある

ことは留意しておくべきです。

 

しかし、ひとつだけ望みがあるとすれば、通勤に使っているICカードです。

ICカードには改札の入退場時刻が記録されているため、そこから会社までの徒歩時間を差し引きすればおおよその労働時間が分かるというわけです。

ただ、やはり直接な証拠ではないので、立証能力としては不十分な感はあります。

 

そういうことからして、普段の仕事で証拠を残す動きはしておいた方がよいでしょう。

 

働いた分を請求する方法

ここからは、実際に未払い残業代を請求する方法について説明していきます。

 

請求できるのは過去2年分

最初に注意点ですが、未払い残業代の時効は2年です。

意外と短いですね。

勤続2年以上なら、会社に入りたての頃の残業代は泣き寝入りするしかないということですね。

 

相談先

実績だけでなく相性も必要

相談は弁護士にするわけですが、弁護士といってもそれぞれ強みが異なりますから、未払い残業代請求に実績のある弁護士に相談します。

しかし、弁護士も人間なので人対人になるわけですから、無意識に好き嫌いが出るのは当たり前です。

なので、たとえ未払い残業代請求に強い弁護士で実績が伴っていても、

『なんか、この人イヤな感じ・・・』

って思ってしまうと、その後付き合いがおっくうになります。

 

弁護士の場合、相談料や着手金がかかることが大半ですが、最近では初回のみ無料にしているところも増えているので、そういうところを積極的にハシゴして、実績的にも人間的にも希望に沿うような弁護士を選びましょう。

 

利用料は?

弁護士に相談した場合、着手金や成功報酬などが決められていますが、それらの合計額の平均相場としては、

30~40万円 + 成功報酬(請求できた額の20%)

です。

もちろん、4~5時間の残業代を請求するには出費の方が大きくなります。。

請求できる見込み額がどのくらいなのか、あらかじめ自分で見積もってから相談するかしないか決めると良いでしょう。

 

判例の紹介

これから紹介するのは、タイムカードの打刻時間などの客観的証拠がない場合にでも未払い残業代を請求できた事例です。

 

<帰宅時間を記録したノートが労働時間の証拠の一部として用いられた判例>

工業用ゴム・プラスチック製品の販売を行うB社で起きた未払い割増賃金請求事件の判例です。この判例は、会社側の出退勤管理の不備を認め、従業員の妻が記録していた帰宅時間を証拠の一部として認めた判決として注目されました。

■事案の概要
B社の従業員が、1年4か月にわたり午後10時ないし翌朝午前4時頃までの平日の所定労働時間外勤務や休日勤務に対する賃金が未払いであるとして、超過勤務手当及びこれと同額の付加金の支払いを請求したもの。

■裁判の結果
裁判所は、従業員の勤務時間を客観的に裏付ける証拠は存在しないとしながらも、会社がタイムカード等による出退勤管理をしていなかったことで従業員を不利益に扱うべきではなく、総合的に判断してある程度概括的に時間外労働時間を推認するのが相当として、平日について午後9時までの超過勤務を認定しました。
また、B社が出退勤管理を怠り、相当数の超過勤務手当が未払いのまま放置されていたことなどから、付加金の支払いも命ずるのが相当であると判断しました。
このことから、裁判所は、B社に対して未払い賃金額約273万円および付加金約230万円の計約503万円の支払いを命じました。

■裁判のポイント
この事例では、従業員の主張する時間外労働時間を裏付ける証拠は、日直当番戸締まり確認リストの記載のほか、従業員の妻が帰宅時間を記録したノートしか存在しませんでした。
裁判所は、ノートの記載からは退社時刻を確定できないとしながらも、会社が労働時間を管理していないのは会社の責任であることから、全証拠を総合的に判断して時間外労働の時間を推認しています。
会社が労働者の労働時間を適切に把握する責務を果たしていない場合、タイムカード等の客観的で明確な記録がなくても、労働者が個人的に記録している手帳のメモなどが証拠として採用される場合があることが分かる判例だといえます。

(出典:https://ak4.jp/column/precedents-of-overwork-pay/)

 

結局、証拠として認められたのは

  • 日直当番のリスト
  • 原告の妻の退社時刻記録ノート

になったわけですが、どれもごまかそうと思えばごまかせますよね。

特に妻のノートは身内が作った証拠ですから、現実に『ノートの記載からは退社時刻を確定できない』とはっきりと裁判所で言われているわけです。

 

なので、先述したように普段から客観的に証拠として認められる材料を集めておくことは重要ですが、こうういうのも証拠として認められた判例があるということも知っておくと良いでしょう。

 

残業代を請求したら、会社を辞める覚悟が必要

ここまで、エア退社で失った残業代を取り戻す方法を説明してきましたが、この項目ではさらに現実味のある話をします。

 

管理人が当事者なら、たとえ残業代が数百万にのぼったとしても、あえて相談はしません。

理由としてはいくつかあり、

  1. 弁護士に相談する労力・時間がもったいない
  2. その後不利益を被らせられるおそれがある。それがなくとも、会社に居づらくなる

ざっとこんなところです。

 

1.のほうは個人的な気持ちの持ち方です。

『どうしても許せない!!』という人もいると思うので、そういう人は納得のいく結果が得られるまで動けばいいと思います。

 

しかし、厄介なのは2.です。

未払い残業代を請求するということは、いわゆる会社に対する宣戦布告のようなもので、結果的にも会社に対して不利益を被らせることになります。

すると、会社から”報復”を受けることになり、具体的には、

  • 昇進のストップ
  • 懲罰人事
  • 嫌がらせによる退職への追い込み

などがあって、どれも実際に起きています。

もちろん、表向きにはそういうことをしてはいけないことになっていますが、どの行為も客観的には分からないようなやり方でけしかけてくるので、未払い残業代の請求以上に立証が難しくなります

そうなったら、また会社を相手に争わないといけなくなり、心身ともに疲労困憊になります。

 

なので、未払い残業代を請求するときは自分が会社を去る覚悟ができている場合だけに留めておいた方がよいでしょう。

 

しかし、管理人だったら、そんな場合でも請求はしないでしょう。

というのも、

会社に残った人間がトクするだけ

だからです。

 

こういう場合、残業代請求した本人だけでなく、そのほかの社員たちも同じような扱いを受けていないか調査が入ってその人たちにも未払い残業代が支払われるパターンが多いです。

それって、関係ない社員たちにとっては漁夫の利ですよね。

自分は残業代の請求に成功したとしても、

  • 高額な弁護士費用を支払った
  • 会社を辞めた
  • 残業代請求までの長い道のり、労力を費やした

という点ですでにデメリットを被っているわけです。

結果的に、残った社員たちのために自分が犠牲になってしまうわけです。

 

利他主義的な考え方の人はそれが幸せなんでしょうが、大多数はそうでないと思うので、残業代請求にはあまりメリットはないと考えたほうがよいでしょう。

 

まとめ

以上、長々と説明してきましたが、働き方改革が施行されて半年弱。

その副作用であるエア退社はこれからもどんどん増え続けていくことが予想されます。

 

となると、未払い残業代が発生してくるわけですが、いんたれスクエアではその請求は積極的にしないことを推奨します。

いずれこういうことが社会問題化して、国全体がエア退社に対する対策を施してくれることを待った方が賢明だと感じます。

 

しかし、どうしても納得がいかないという場合は弁護士に相談して未払い分を請求すればいいと思いますが、その際に証拠はほぼ必ず必要になります。
なので、普段から証拠を集めておく意識は持っておいた方がよいでしょう。

そして、護士費用の総額も30~40万円プラス成功報酬、というように決して安くはありません。

なので、未払い分が少ない場合は出ていくお金の方が多くなります。

 

いずれにしても、これは会社相手の争いであるのは間違いないので、その後どうなるのかは考えて行動すべきです。

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